地震による北海道のブラックアウトのように、他の発電所や自然エネルギーなどが発電できる状態であるに、一部の発電設備が停止すると、全体の系統(発電所から需要家までの電力の配線網のこと)を止めざる得ない状況が発生します。これは、系統全体の電力が常に一定の周波数と位相を保っていないといけないという理由があるからです。
このような大規模な系統に対して、地域の中で独自の電力配線を行い、電力をやりとりしていくという「マイクログリッド」の研究が行われています。マイクログリッドという言葉が生まれて10年以上経つと思われます。しかし、一部の地域を除いて、なかなか普及していない状況です。
近年は住宅にも太陽光発電が普及しています。一般に住宅用の太陽光発電は、昼間の電力が余る場合が多く、現在は、固定価格買取制度により電力会社がかなり高い単価で買い取ってくれています。しかし高く買い取るための財源は、一般の(電力の)消費者に負担してもらっており、この制度を永久に続けることは難しいと考えられます。いずれは、家庭のような小口電力においても、電力取引市場のような場所での自由取引になっていくと考えられます。
しかし、もっと単純に考えると、電力が余ったら、隣近所に電力を安く融通するということがもっとできたらよいのではないかと思われます。例えば、太陽光発電で余った電力を、隣家の太陽光発電の無い家庭に譲ってあげることができれば都合がよいです。しかし、現状では隣に電力を売る場合にも、太陽光から出た直流電流を系統電力の電圧と周波数に合わせた交流電力に変換して電力を送り出すことが必要で、さらに電力を他の人に送るためには、電力を輸送するための託送料を電力会社に支払う必要があります。この託送料が高く設定されているため、現状では、隣近所に電力を融通することは不可能な状況になっています(電力契約上もできないことになっていると思われます)。
コンピュータのインターネットは、全体を制御する中心のコンピュータが無いものの、ネットワークにつながった個々のコンピュータが相互に情報をやり取りすることで成り立っています。同様に、太陽光発電などの小型の電力源が、相互につながって電力のインターネットのようなものができないのでしょうか。
東大の阿部力也先生の書籍『デジタルグリッド』では、「デジタルグリッドルーター」という双方向のインバータ技術により、隣接地同士の需要家を結んで、セルという構成単位をつくり、配電網を電力のインターネットに変えていくことが提案されています。セルは、住宅から地域、自治体レベルまでさまざまな段階が考えられ、既存の電力系統からの自立を可能とします。このような「デジタルグリッドルーター」が安価になり、様々な規模で利用できるようになれば、家庭内でも電力のインターネットが可能になり、自宅の太陽光発電の電力の一部を直接、家電の電力やスマートフォンの充電用に利用できるような時代がくるのかもしれません。この分野がいずれは大きな市場に育っていくような予感がします。