非平衡熱力学研究会

  1. 非平衡熱力学シミュレータの開発
    生物や社会は局所的な相互作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動しています。このような複雑な形態を自己組織的に構築する技術は、工学が目指す究極の目標の一つです。本研究は、「非平衡熱力学シミュレータ」の開発を行い、散逸構造が持続するための条件や、複雑に進化するための条件を検討する基盤を構築するものです。このシミュレータにより、生態系の構造を見通すことや、都市が誕生し発展する様子を形として見ることが可能となります。
    当該シミュレータは、要素の動きや相互作用を記述できようにセルオートマトン(CA)モデルを用いた粒子モデルを基盤として、さらに反応拡散方程式等による「形態を創発する自己組織化モデル」を組み入れ、局所エントロピーを評価できるものを計画しています。また複雑な形状を表現できないという従来のCAモデルの欠点を克服し、少数セルで多様な相互作用を記述できる「多ブロック型CAモデル」を提案し、形状の創発を「設計」するためのシミュレータを目指すものです。


  2. 生命創発シミュレータの開発
    メタ生命工学」とは、生命の創発原理や形態形成原理を解明し、それを広く工学に応用する研究です。本研究が対象とする世界は、ナノスケールとマクロスケールの間のメソスケール系を対象とします。生物はこのメソスケール系における自己組織化現象を利用して細胞などの複雑な機構を生み出しています。一方でこの系の現象を工学的に利用できていない原因の一つは、この領域におけるコンピュータシミュレーション手法が確立されていない(連続体力学が使えない、分子動力学では対象が大きすぎる)ためと考えられます。本研究室では「非平衡熱力学シミュレータ」を基盤に、「細胞形状の自己組織的形成シミュレーション」の研究を行っています。熱力学法則や有限の反応規則の組合せで人工細胞が創発され、自己複製する過程をシミュレーションで示すことを目指しています。また同時に最小細胞(プロトセル)の人工的な合成のための道程を明らかていきたいと思っています。本提案の階層型CAモデルにより、メソスケール系の「基礎方程式」、「時空」、「機能」の各知見を統合する新しいツールを提供することができると考えられる。さらに本シミュレータの構築は、人工的な製造物の生産にも大きく貢献できると考えています。

    図 生命の起源をコンピュータシミュレーションで探る


  3. 文明工学の研究
    文明工学」とは、筆者が提案した概念です。人類の知を結集することで次にくる文明のパラダイムシフトを「設計」できると考えられます。衰退していく日本の憂鬱な未来予測ではなく、未来の社会システムを自ら設計する方法を提案するものです。拙著システム工学で描く持続可能文明の設計図 ~ 文明設計工学という発想 ~』(2014年6月刊行、大学教育出版)では、エネルギー(エントロピー、セクセルギー)、生物代謝、生態系などからヒントを得て、持続可能な文明の概念設計を試みています。
    また、拙著『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』(成山堂書店  ISBN 978-4-425-98511-1、2020年3月刊)では、生命、生態系、社会、文明はなぜ生まれるのかを、「散逸構造」から理解し、 「エントロピー」を視点として持続可能な文明の条件を考えています。さらに海・沿岸部を起点とした循環型の持続可能文明の構築シナリオを提示しています。
    今後は、「非平衡熱力学シミュレータ」を用いて、文明設計シミュレーションを構築していくことが目標です。


  4. 機械倫理学の研究
    「非平衡熱力学シミュレータ」を基盤に知的システムの創発メカニズムを研究しています。意識をもった人工知能の研究により、倫理的な判断が可能となる認知システムの構築を目指しています。