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生物や社会は局所的な相互作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動しています。

このような複雑な形態を自己組織的に構築し制御する技術は、工学が目指す究極の目標の一つです。

本研究室は、散逸適応シミュレータの開発を行い、散逸構造が持続するための条件や、複雑に進化するための条件を検討するシミュレーションの構築を進めています。そして、これを用いて、最小細胞(プロトセル)の創発プロセスの解明を目指しています。

このシミュレータを基盤として、創発工学(Emergence Engineering)と呼ぶべき、自己組織化現象に基づいたデザイン工学が進展すれば、従来とは次元の異なる高度で複雑な機械システムを構築することが可能となると考えられます。そして、これは、蒸気機関の発明による産業文明の興隆に匹敵する、次の文明の出発点になるのではないかと考えています。

将来のステップとしては、この非平衡熱力学シミュレータを基礎として、「バイオマイクロマシン設計シミュレータ」や「文明・社会のシミュレーション」、「知的システムの創発のメカニズムを解明」に応用したいと考えています。

 


◆書籍の紹介

石田武志『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』成山堂書店  ISBN 978-4-425-98511-1、2020年3月刊、2000円
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石田武志『システム工学で描く持続可能文明の設計図 ―文明設計工学という発想―』大学教育出版 ISBN 978-4-86429-245-0、2014年6月20日刊行
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石田武志人工知能ロボットがつくる「無人自動企業」の可能性: もう一つの人工知能 人工「低」能による群知能がつくる未来』電子書籍Kindle版、2016年3月
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石田武志『EXCELでつくる生態系モデル: デイジーワールドモデルをつくる』電子書籍Kindle版、2017年3月
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プロフィール

自己紹介


石田 武志(Takeshi Ishida)

1966年、東京の江戸川区で生まれ、東京の下町で育つ。
東京理科大学工学部機械工学科、同大学院工学研究科(機械工学専攻)修士課程修了。
大学院の後、財団法人日本システム開発研究所(財務省所管のシンクタンク)で環境・エネルギー分野の調査研究・分析業務に携わる。この間働きながら東京理科大学理工学研究科(経営工学専攻)の博士課程に通い博士(工学)を取得。
また、実務経験を踏まえて技術士(環境部門、総合技術監理部門)を取得(APECエンジニア登録IPEA国際エンジニア登録)。
その後、埼玉県にある日本工業大学システム工学科の専任講師になる。同大学ものづくり環境学科准教授を経て、2013年9月より独立行政法人水産大学校海洋機械工学科(現 国立研究開発法人 水産研究・教育機構 水産大学校 海洋機械工学科)の教授。

所属学会:日本機械学会、生物物理学会、日本マリンエンジニアリング学会、水産工学会など


研究・教育の実績・活動紹介


研究実績一覧のページ

教育実績一覧のページ


研究活動の究極の目標

■生命の創発プロセスの解明

最近の人工知能ブームにより、画像認識などの分野は大きな進展がありました。しかしSF映画のようなヒューマノイドができて、2045年にシンギュラリティが到達するというのは疑問です。なぜなら、真の汎用人工知能については、大きな技術的進展は得られていないからです。以前から言われていたとおり、人間と同じ脳を作るには、人間と同じ身体をつくらないといけないなど、汎用人工知能への道のりは長いと感じます。

また、知的なものは、人間の脳だけではありません。生態系を見てみると、単細胞生物から哺乳類までそれぞれが知的なシステムであり、これらの多彩な生物が相互作用し、自己組織的に調和が生まれており、生態系全体も知的な複合システムであるという視点でみることもできます。生物や生態系は局所的な相互作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動・進化してきています。

このような自然のシステムを真に理解し、同等の人工システムを構築し、さらに生物のような知的なシステムを構築するためには、「生物はどのようプロセスで生まれたのか」という根源的な理解が必要であると考えられます。最初の細胞が創発するプロセス、そして細胞が群れとなって、より高度なシステムが生まれるプロセスを真に理解することが必要です。しかし、生命の誕生については、様々な仮説が提唱され、多くの研究が行われていますが、生命の条件を同時に満たすものができるプロセスは依然として明確ではなく、人工的な生物の合成も完全にはできていない状況です。

一方で、この生物細胞のような複雑な形態を自己組織的に構築し、さらにそれを制御する技術は、人類が目指す究極の目標の一つです。いわば創発工学(Emergence Engineering)と呼ぶべき、自己組織化現象に基づいたデザイン工学が進展することにより、従来とは次元の異なる高度で複雑な機械システムを構築することが可能となると考えられます。そして、これは、蒸気機関の発明による産業文明の興隆に匹敵する、次の文明の出発点になるのではないかと考えています。

私の研究は、この創発工学の基礎を構築するためには、
1.最小細胞(プロトセル)の創発メカニズムの解明
2.生物の階層的な形態形成メカニズムの解明
3.知的システムの創発メカニズムの解明

が必要であると考えています。

このうち、1.に関連する研究としては、主なもののひとつはセルオートマトン(CA)モデルを用いて、チューリングパターンモデルとコンウェイのライフゲームを融合したものです(図1)。

 

図1. チューリングパターンモデルとコンウェイのライフゲームを融合した自己複製モデル[1]

[1]  Ishida, Takeshi, Possibility of Controlling Self-Organized Patterns With Totalistic Cellular Automata Consisting of Both Rules Like Game of Life and Rules Producing Turing Patterns, Micromachines, 9, 339, (2018)

さらに、CAモデルより多彩な表現ができる、確率「マルチセット化学格子モデル」を考案し、仮想的な分子の拡散と、循環する反応系、分子の重合のみで、自己複製能力をもった細胞様の境界が創発され維持され、自己複製していくという、生命の4条件を満たした現象を創発させることが可能であることを示しました(図2)。

図2「マルチセット化学格子モデル」による細胞形状の創発シミュレーション[2]

[2] Takeshi Ishida, Emergent simulation of cell-like shapes satisfying the conditions of life using lattice-type multiset chemical model,   arXiv:2204.09680, http://arxiv.org/abs/2204.09680

このシミュレータにより、分子の相互作用から、細胞が創発される過程をシミュレーションにより示すことが可能となり、さらには、このシミュレータを基礎として「バイオマイクロマシン設計シミュレータ」を目指しています。

また、分子の挙動を社会の中の人間などの要素に応用することにより「文明・社会の設計シミュレーション」への展開もできます。さらに、神経ネットワークの創発をシミュレートすることにより「知的システムの創発のメカニズムを解明」に応用していきたいと考えています。

■バイオマイクロマシンの設計シミュレーター

生物は局所的な化学作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動しています。生物のような複雑な形態を自己組織的に構築する技術は、機械工学が目指す究極の目標の一つです。しかし、生命のような自律的な階層システムを一から創発させるプロセスは解明されていない未踏領域であり、既知の自己組織化現象をモジュール化してそれを部品のように組合せて、生物のような精緻なバイオマイクロマシンなどの形を設計するシステムの開発をめざしています。

■バイオマイクロマシンとは?

例えば、細胞の合成プロセスをシミュレーションすることで、微生物型ロボットの設計などができます。下図は、海洋中の重金属や放射性元素を吸着するロボットのイメージしたものです。生物と同じ原理で動き、自己増殖していき、これが海洋中の汚染を徐々に食べつくしていきます。

■その先の未来を目指して

■「知的システムの創発のメカニズム」を解明する

タコの擬態のメカニズム、群れの創発シミュレーション、形態形成シミュレーションを、非平衡系シミュレータで統合し、知的システムの創発を解明しています。


大学研究室

国立研究開発法人 水産研究・教育機構
水産大学校 海洋機械工学科 石田武志研究室

水産研究・教育機構のホームページ

水産大学校のホームページ

■研究室名: 環境情報システム研究室
■所在地: 山口県下関市永田本町2-7-1

■研究室代表者: 海洋機械工学科 海洋機械学講座 教授 石田武志

■主な研究

1.フグ種・雑種鑑別システムの開発

フグは、種別ごとに体内での毒の分布状況が異なるため、可食できる部位が定められています。一方で、交雑したフグは、毒の部位が不明なため、調理されずに処分されます。

交雑種も含めた種の判別が可能となれば、フグの毒部位が明確になり、フグの無駄な処分が減るとともに、フグ種の誤判断の可能性も低くなると考えられます。

 本研究は、フグ種ごとに異なる体模様を再現するコンピュータモデルを開発し、そのモデルからフグ種の判定を行うシステムの構築を目指しています。

フグ模様の形成シミュレーションの事例

2.魚群シミュレーションによる計数システムの開発

生簀(いけす)の内部の魚の動きを魚群シミュレーションにより再現し、さらに人工知能の技術と組み合わせることで、生簀から直接得られる情報(動画や超音波センサー等による生簀の一部の魚の動きの情報)から、高精度に魚数を推計するシステムの開発を目指した研究です。

魚群シミュレーションの事例

 

3.沿岸域のエネルギーシステムに関する研究

分散エネルギーネットワークを組合せて漂着ゴミを経済的に処理することができるシステムの検討や、バイオメタノールを基盤とした沿岸での循環型社会のシミュレーションを実施しています。

4.タコの擬態から考える新しい人工知能

タコは3つの心臓、9つの脳を持ち青い血液が流れています。そして、無脊椎動物の中では最も知能が高く、優れた擬態能力があり、瞬時に岩や海藻などの背景に擬態します。
タコの擬態は、優れたレンズ眼で周囲の景色を読取り、脳で情報を処理して、皮膚の色素胞を変化させて、様々な色と模様を作り出しています。このメカニズムをシミュレーションで再現するとともに、瞬時に特徴を把握するという機能を、ディープラーニングなどに応用する可能性を探っています。
これが実現できると「多種少量の学習データでも利用可能な人工知能」につながり、水産分野で様々な職人の「カン」を人工知能へ移植することができると考えられます。

5.水産AI(2019年度卒業研究)

– 畳込みニューラルネットワークを用いた体模様判別モデル
– 転移学習によるフグ画像の判別モデルの構築

 

 

非平衡熱力学研究会

  1. 非平衡熱力学シミュレータの開発
    生物や社会は局所的な相互作用から自己組織的に形成され、エネルギーと物質の代謝を行いながら自律的に駆動しています。このような複雑な形態を自己組織的に構築する技術は、工学が目指す究極の目標の一つです。本研究は、「非平衡熱力学シミュレータ」の開発を行い、散逸構造が持続するための条件や、複雑に進化するための条件を検討する基盤を構築するものです。このシミュレータにより、生態系の構造を見通すことや、都市が誕生し発展する様子を形として見ることが可能となります。
    当該シミュレータは、要素の動きや相互作用を記述できようにセルオートマトン(CA)モデルを用いた粒子モデルを基盤として、さらに反応拡散方程式等による「形態を創発する自己組織化モデル」を組み入れ、局所エントロピーを評価できるものを計画しています。また複雑な形状を表現できないという従来のCAモデルの欠点を克服し、少数セルで多様な相互作用を記述できる「多ブロック型CAモデル」を提案し、形状の創発を「設計」するためのシミュレータを目指すものです。


  2. 生命創発シミュレータの開発
    メタ生命工学」とは、生命の創発原理や形態形成原理を解明し、それを広く工学に応用する研究です。本研究が対象とする世界は、ナノスケールとマクロスケールの間のメソスケール系を対象とします。生物はこのメソスケール系における自己組織化現象を利用して細胞などの複雑な機構を生み出しています。一方でこの系の現象を工学的に利用できていない原因の一つは、この領域におけるコンピュータシミュレーション手法が確立されていない(連続体力学が使えない、分子動力学では対象が大きすぎる)ためと考えられます。本研究室では「非平衡熱力学シミュレータ」を基盤に、「細胞形状の自己組織的形成シミュレーション」の研究を行っています。熱力学法則や有限の反応規則の組合せで人工細胞が創発され、自己複製する過程をシミュレーションで示すことを目指しています。また同時に最小細胞(プロトセル)の人工的な合成のための道程を明らかていきたいと思っています。本提案の階層型CAモデルにより、メソスケール系の「基礎方程式」、「時空」、「機能」の各知見を統合する新しいツールを提供することができると考えられる。さらに本シミュレータの構築は、人工的な製造物の生産にも大きく貢献できると考えています。

    図 生命の起源をコンピュータシミュレーションで探る


  3. 文明工学の研究
    文明工学」とは、筆者が提案した概念です。人類の知を結集することで次にくる文明のパラダイムシフトを「設計」できると考えられます。衰退していく日本の憂鬱な未来予測ではなく、未来の社会システムを自ら設計する方法を提案するものです。拙著システム工学で描く持続可能文明の設計図 ~ 文明設計工学という発想 ~』(2014年6月刊行、大学教育出版)では、エネルギー(エントロピー、セクセルギー)、生物代謝、生態系などからヒントを得て、持続可能な文明の概念設計を試みています。
    また、拙著『再生可能エネルギーによる循環型社会の構築』(成山堂書店  ISBN 978-4-425-98511-1、2020年3月刊)では、生命、生態系、社会、文明はなぜ生まれるのかを、「散逸構造」から理解し、 「エントロピー」を視点として持続可能な文明の条件を考えています。さらに海・沿岸部を起点とした循環型の持続可能文明の構築シナリオを提示しています。
    今後は、「非平衡熱力学シミュレータ」を用いて、文明設計シミュレーションを構築していくことが目標です。


  4. 機械倫理学の研究
    「非平衡熱力学シミュレータ」を基盤に知的システムの創発メカニズムを研究しています。意識をもった人工知能の研究により、倫理的な判断が可能となる認知システムの構築を目指しています。